University of Electro-Communications, Institute for Laser Science
戸倉川研究室では新規光源の研究を行っています。なぜ光源開発をするか?
レーザー光源は日本の産学を支える重要な技術ですが、昨今その大半が海外からの輸入品です。その導入費用が研究の大きな足枷となり、研究開発費の国外流出にもつながっています。また購入できればまだ良い話であり場合によっては特許や安全保障上の問題から国内では最新の光源が入手できず、研究の舞台に立てなくなるといった危険性もあります。これは逆に言えば自分たちで市場にはない最先端のレーザーを開発し利用すれば 、競合の追随を許さない結果が得られるともいえます。
我々は特に最近では「軟X線から中赤外、THzまでを繋ぐテーブルトップサイズ高輝度光源」の開発を長期的な目標としています。これらの波長の光は産学の応用上とても重要で、spring-8, ナノテラスを始めとした超大型施設やAichSRやSAGALS、HISORなどの比較的小型な施設が、産学連携のもと日本全国に建設されています。
しかし費用や、マシンタイム、輝度、時間分解能などは一長一短があり、テーブルトップサイズでこれら領域の光を発生できる装置が実現できると大きなメリットが見込まれます。
戸倉川研究室 研究論文概要: (English) (日本語)
戸倉川研究室では国内外の企業・大学と協力し、新規の光源開発、具体的には高強度な波長2 μm 帯長短パルスレーザー光源の開発と応用研究を目指し現在以下のようなテーマに取り組んでいます。
0.軟X線から中赤外、THzまでを繋ぐテーブルトップサイズ高輝度光源
1. 波長2.1 μm帯 低繰り返し(1-10 MHz )超短パルスHo個体レーザー発振器
2. 波長2.1 μm帯 高出力Ho個体増幅器(50-100 W,100 KHz-10 MHz,DFC Ho:YAG)
3. 波長1.9 μm帯 高出力(100s W)Tmファイバーレーザー (robust, low cost)
4. 非線形パルス圧縮 (multi-pass cavity, highly effeciennt)
5. 波長2 μm帯ナノ秒パルスTmファイバーレーザーの開発と加工応用 (~100ns, 25W)
6. ホログラフィック顕微鏡の開発 (photo thermal wiht home built MidIR light source )

0.軟X線から中赤外、THzまでを繋ぐテーブルトップサイズ高輝度光源
Tm、Ho、Cr添加固体レーザーを用いた波長2~2.5μm帯超短パルス光源の開発を行っています。
これまでに共振器内での非線形光学効果や複合利得媒質を利用して波長2 µm帯の固体レーザーでは世界最短パルスの発生に成功してします。
今後の目標としては波長2.1μm帯のHo超短パルスレーザーの高出力化とそれを起点とした、高次高調波による紫外ー軟X線領域の高輝度超短パルスレーザーシステムの開発や、2-20μm帯の高輝度中赤外超短パルス光源の開発を目指しています。

1. 波長2.1 μm帯 低繰り返し(1-10 MHz )超短パルスHo個体レーザー発振器
Hoは波長1.9 μm帯の励起において波長2.1 μm帯で発振可能であり、その量子欠損は現在主流の波長1 μm帯Ybレーザーに匹敵します。またYbレーザーは励起光源がマルチモードの半導体レーザーであることからレーザーの設計自由度が制限されやすいですが、Hoレーザーは回析限界のビーム品質を有する波長1.9 µmTmファイバーレーザーが利用できることから、Ybレーザーでは実現できないような共振器の設計も可能となります。
本研究では上記Hoレーザーの特徴を生かした繰り返し1-10MHzの高エネルギーモード同期発振器の開発を進めています。
2. 波長2.1 μm帯 高出力Ho個体増幅器(50-100 W,100 KHz-10 MHz,DFC Ho:YAG)
平均出力100W以上で回析限界のビーム品質を有するTmファイバー励起光源を用いて、平均出力50-100 W,繰り返し周波数100 KHz-10 MHzのチャープパルス増幅器の開発を進めています。
3. 波長1.9 μm帯 高出力(100s W)Tmファイバーレーザー (robust, low cost)
Ho添加個体レーザー用の励起光源として波長1900-1950 nm帯で動作する高出力Tmファイバーレーザーの開発を進めています。目標値としては最大出力200 W(ランダム偏光)、100W(単一偏光)、長期メンテナンスフリーのターンキーシステムです。
2025年3月までに単一偏光で40W出力まで達成しています。
4. 非線形パルス圧縮 (multi-pass cavity, highly effeciennt)
Ho添加媒質を用いた増幅器では100fsを切るような短パルスを発生することは、利得帯域幅の制限から難しいです。
本研究ではHo増幅器からの出力を自己位相変調によるスペクトル広帯域化と分散補償によって数サイクルまで圧縮する非線形パルス圧縮器の開発を進めます。数サイクルまで圧縮することができると、高次高調波発生や数オクターブにわたる超広帯域光発生などの応用が広がります。
5. 波長2 μm帯ナノ秒パルスTmファイバーレーザーの開発と加工応用 (~100ns, 25W)
Qスイッチレーザーはモード同期レーザーのようにpsーfsというような短いパルスを発生することは難しいですが、nsレベルのパルスでµJ~mJのパルスを比較的容易に発生可能です。本研究ではQスイッチファイバレーザーと大口径ファイバー増幅器を組み合わせて波長2μm帯の高出力ナノ秒ファイバーレーザーと加工応用の研究を進めています。
6. ホログラフィック顕微鏡の開発 (photo thermal wiht home built MidIR light source )
対象の形状・構造を高分解能に観察することに加え、分子分布を可視化する技術が必要とされています。
例えば:ドラッグデリバリーの観測、生体組織の活動(膨張・発熱?)、がん化した細胞の検出
我々が開発中の中赤外光源を用いたフォトサーマル顕微鏡の開発を目指し、ホログラフィック顕微鏡の開発を進めています。
![中赤外光源の開発と応用 [自動保存済み].tif](https://static.wixstatic.com/media/99ce23_1b6d39cc574f4d7589bffb42d540a867~mv2.png/v1/crop/x_0,y_202,w_960,h_518/fill/w_510,h_275,al_c,q_85,usm_0.66_1.00_0.01,enc_avif,quality_auto/%E4%B8%AD%E8%B5%A4%E5%A4%96%E5%85%89%E6%BA%90%E3%81%AE%E9%96%8B%E7%99%BA%E3%81%A8%E5%BF%9C%E7%94%A8%20%20%5B%E8%87%AA%E5%8B%95%E4%BF%9D%E5%AD%98%E6%B8%88%E3%81%BF%5D_tif.png)
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7. 小型高繰り返し中赤外デュアルコム光源の開発 (handy size, Cr:ZnS )
波長2-20 μm帯中赤外領域は目の損傷閾値が高いアイセーフ領域や各分子が特徴的な吸収を有する分子の指紋領域を有しており、さまざまな応用において高い注目を集めている。中でもわずかに繰り返し周波数の異なる2台の同期された光コム光源(周波数制御された超短パルスレーザー)を用いたデュアルコム測定法は機械的な掃引なしでの高速・高感度な観測を可能とする。しかし2台の同期された光コム光源が必要であることが普及上のネックとなっている。
本研究では個体レーザー技術を用いて利得媒質にCr:ZnSを用いた手のひらサイズのデュアルコム光源の開発を行っている。
Cr:ZnSは中赤外のTi:SaFレーザーとも呼ばれ2-3 µm帯に広がる広帯域で大きな誘導放出断面積【10の-18乗/cm2】を有しており高繰り返し化にうってつけである。
我々はこれまでに全長5~7.5 cmの手のひらサイズの共振器で半導体可飽和吸収体鏡を用いた超短パルス光源の開発を進め、最大出力700mW以上を達成している。使用している半導体可飽和吸収体鏡の性能によって今だ超短パルス発生には成功していないが、現在より最適化された半導体可飽和吸収体鏡を入手し実験を進めている。
本研究は公益財団法人JKAの2024競輪とオートレースの補助事業の
ご支援を頂きました。ここに深く感謝いたします。

8. 2 μm帯超短パルスファイバーレーザー
ファイバーレーザーでは波長に依存してシングル横モード時のファイバーコアサイズを大きくすること可能であり、現在の主流である波長1μm帯ファイバーレーザーに比べ波長2 µm帯ではラマン散乱やブリルアン散乱などの非線形効果の抑制が可能です。
我々は小型でメンテナンス性や可搬性を考慮した応用上望ましい、ファイバーレーザーの開発を目指し、半導体可飽和吸収体鏡を用いた波長可変ノイズ ライクパルス発振器、非線形ループミラーを用いた全ファイバー型高パルスエネルギー発振器、10Wレベル増幅器、非線形偏波回転を用いたソリトン モード同期発振器を実現しています。また最近ではフッ化物ファイバーを用いた初めての全正常分散モード同期ファイバーレーザーの開発にも成功しています。これらの光源を用いて超広帯域白色光発生、有機ポリマー材やシリコン材料のレーザー加工などの応用を行っています

増幅自然放出光光源・超広帯域光源・波長可変光源
上述のレーザー光源を励起光源とした、波長帯2-20μm中赤外波長変換を目指しています。 将来的な応用としては近年の急激な地球環境変化を可視化し対応するための中赤外LIDARによる環境計測、高輝度広帯域の中赤外光源を用いた高機能呼気分析を 用いた非侵襲性型スクリーニングによる早期発見・治療を重視した次世代医療システムの構築、中赤外励起光源を用いたコヒーレント軟X線光源よる次世代構造 物性学などへの寄与を目指しています。

上記研究は以下の支援のもと行われています。
・社会実装を目的とした小型安価で使い易い中赤外デュアルコム光源の開発,
公益財団法人JKA 2024年度競輪とオートレースの補助授業2024年4月-2025年3月
・超高輝度ファイバーレーザー励起中赤外チャープパルス増幅システムの探索,
2024年度 基盤研究(B)(一般) 2024年4月 - 2027年3月
・高ビーム品質な励起光特性を利用した波長2.1 µm帯ホロニウム添加ps fs短パルス加工光源,
公益財団法人 天田財団 2023年10月 - 2026年3月
松尾学術振興財団 2022年 - 2023年
・波長2μm帯レーザー加工用、高エネルギー超短パルスTmファイバー発振器の開発,
科研費 基盤C 2019年4月 - 2022年3月
・光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)次世代レーザー
電気通信大学内分担者 2018年~2028年度
・波長2μm帯ナノ秒/フェムト秒光パルス増幅器の開発および加工応用,
天田財団 2017年10月 - 2020年3月
・In-band励起を用いた高性能2μm帯短パルスTm添加固体レーザー光源の研究,
科研費 若手B 2016年4月 - 2018年3月
公益財団法人 天田財団 レーザプロセッシング 一般研究開発助成 2014年 - 2017年3月
・イッテルビウム添加媒質を用いた高出力・高エネルギー超短パルス光源及び増幅器の開発,
2009年4月 - 2010年3月



